■脳の中の原始



 かつて人間が爬虫類だった頃の、あるいは原始哺乳類だった頃の名残は、今でも脳の中に見いだすことができる。

 人間の大脳は大きく分けて新皮質と辺縁系と基底核の三つからなる。

 人間に進化したときに急激に発達したのが新皮質で、知性、情操、意志、創造といった最も人間らしさを発する部分である。

 辺縁系はさらに旧皮質と古皮質とに分かれ、旧皮質は一般に下等哺乳類型の脳といわれ、古皮質は爬虫類型の脳といわれる。これらの辺縁系は本能的な行動をはじめ情動行動、集団行動、原始的な感覚や記憶、自律機能の統合など、いわゆる人間の動物的な部分に関係している。

 基底核は全身からの情報を大脳に入れる感覚神経と、その情報にしたがって全身を運動させる運動神経の経路である。

 おもしろいことに、胎児の大脳では新皮質、辺縁系、基底核が均等に構成されていて、発育につれ新皮質が巨大化し、それにつれて辺縁系は周辺部へ押しやられ、基底核は内側へ畳み込まれる。人間の部分が勝るわけだ。

 私たち人間が今のところ地球生命の進化の頂点にいるとしたら、それは他の生命とはまったく無関係にかけ離れた種として存在するのではなく、おそらくは他の種を内部に抱え込み、種族発生以前の旧い記憶を引きずりながら存在しているに違いない。

 私たち人間の髪の毛一本の細胞の中にも、その個人を成立させるすべての遺伝子情報が組み込まれているように、私たちの内部に地球生命の今までの進化の情報が(いや、おそらくこれからの進化の情報も)すべて織り込まれているのだろう。私たちは地球の上に存在すると同時に、内部に地球そのものを抱え込んでいるともいえる。

 地球は私たちの内部にある。