■脳はホログラフィとして機能する



 スタンフォード大学の心理学者カール・プリブラムは、このホログラムを、脳が記憶を貯える仕組みを解明するモデルになると見ていた。彼は、記憶は脳のどこかに局在するのではなく、ホログラムのように脳全体にわたって分散している像を貯蔵しているのではないかと考えた。

 彼の理論によれば、記憶やイメージは、ホログラムとほとんど同じ方式で、私たちの脳に記録されている。そして内容の異なる多くのホログラムを重ね合わせることができるように、私たちの脳の内側でも、無限のイメージが積み重なっているかもしれないという。

 また、私たちが何か特定のことを思い出すとき、たぶん私たちはある特定の復元光線を使って、コード化された特定の記録に焦点を合わせているのだろうと。

 彼はまた、ホログラムがもつもう一つの特性に注目する。ホログラムは、同じ波のパターンを何度も何度も繰り返しながら、その全表面にわたって同一の波のパターンを記録している。だから万一ホログラムを落として粉々にしてしまっても、ごく一部を回収すれば、それを使って全体像を復元することができる。
 同様に、ひどい脳損傷を受けても記憶を失わないことがあるのは、脳全体にコードが分散しているからではないかとプリブラムは考えた。そして私たちが心と呼んでいるものは、いわば幽霊のようなホログラム(どこにでもあって、しかもどこにもないもの)として、物質的な脳の中に記憶されているのではないかと推論する。