あしたのために(その三) =履歴書・志望書の書き方=


−目次−

■座右の書・最近読んだ本(映画、演劇、TV番組なども)

■座右の銘・好きな言葉

■志望他社

■あなたってどんな人?

■今までどのように生きてきたか

■今どんなことを考えているか

■なぜウチに入りたいの?

■ウチに入って何がやりたいの?

■ウチをどう思っているの?

■まとめ:七割の学生が共通に犯している誤り

 マスコミだけでなく、製造、販売、金融、サービスなど、三〇〇社以上を対象に、過去数年間の採用試験において、論作文に出された課題と面接で聞かれた質問を分析してみたことがある。その結果、明かに普遍的な傾向があることに気づいた。結論から言うと、採用試験の担当者が学生から聞き出したいことは、次の三つの問いによって集約することができる。

○ あなたってどんな人?

○ なぜウチに入りたいの?

○ ウチに入って何がやりたいの?

 作文にしても面接にしても、試験官が知りたいのはこの三つだけである。あなたがこの三つの質問にきちんと答えられるなら、何も心配することはない。しかしこれがなかなか大変なのだ。

 今回、このテキストを書くにあたり、マスコミ二〇社の履歴書・志望書・自己紹介書(つまり最初にその会社に提出する書類)の内容を分析してみたが、やはり上記と同じ傾向が見られた。ただし、これはマスコミ特有の傾向だろうが、上記の三つの質問に、もうひとつ次のような質問が加わる。

○ ウチをどう思っているの?

 この質問を、「なぜウチに入りたいの?」という質問に含めることもできるだろうが、ここでは便宜上独立させておこう。

 また、「あなたってどんな人?」という質問の中には、自己紹介や自己PRを要求しているニュアンスと、「学生時代に力を注いだこと」「今までで一番感動したこと」、また「最近の感心事」など、あなたの過去と現在を問うニュアンスも含まれている。そこで、ここでは「今までどのように生きてきたか」と「今どんなことを考えているか」という二つの質問も独立させて考えたい。

 そして、これもはっきりした傾向があるのだが、書類選考に残る書類と落ちる書類には明かな違いがある。作文と同じように、応募書類の書き方においても、七割の学生がまったく同じ誤りを犯している。したがって、七割の学生が書類選考で確実に落とされるわけだ。一方、これまた作文と同じなのだが、一〇〇人にひとりは、「これは」と思う書類を書く。こういう人は書類を見た時点で即内内定をもらえるだろう。とにかく書類審査に通らないことには話にならない。そこで、ここでは履歴書や志望書の書き方について、問題点と対処策を挙げながら解説してみよう。

 さて、まずは各社の応募書類に書き込む項目を挙げてみよう。住所、氏名、略歴、家族状況、健康状態、免許・資格、趣味・特技、スポーツ、卒論(ゼミ論)のテーマ、クラブ活動、アルバイトやボランティア歴、希望職種、得意な学科・語学力、購読紙誌。このあたりはどの書類にもほぼ共通で、事務的に簡潔に書き込める項目だろう。正直に書けばいい。事実の列挙でかまわないし、ここで何かをてらう必要はない。

 問題はそれ以外だ。以下に各社の応募書類から抽出した重要項目ごとに、記入時の注意点を個別に解説していこう。括弧の中の「履」は「履歴書」を、「志」は「志望書」を、「紹」は「自己紹介書」を、「セ」は各社が主催するマスコミ・セミナーの申込用紙を、「アナ」はアナウンサー・セミナーの申込用紙をあらわしている。また行数は、A4用紙の短か手を一行とした場合の行数に換算した記入スペースのだいたいの大きさをあらわしている。

 

■座右の書・最近読んだ本(映画、演劇、TV番組なども)


 比較的小さな欄に書名だけ書けばいい場合と、かなりのスペースをさいて詳しく語らせるケースとがある。また、書籍にとどまらず、映画や演劇、TV番組、音楽・芸術にまで対象を広げている会社もある。以下に具体的に各社の関連項目を示そう。

○ 最近印象に残った本など(朝日新聞社・履1行)

○ 読書傾向(読売新聞社・志2行)

○ 好きな本または映画(テレビ東京・志1行)

○ 座右の本(講談社・紹1行)

○ あなたは今までどのような本を読んできたか、最も印象に残った本を中心に書いてください(集英社・志4行)

○ 最近読んだ本とその感想(小学館・志2行)

○ 最近感動した本・映画など(角川書店・志1行)

○ これまでに最も影響を受けた書物・映画・演劇などについて自由に述べて下さい(角川書店・志5行)

○ 好きなテレビ番組(テレビ東京/他局)(テレビ東京・志2行)

○ 好きなテレビ番組(講談社・紹1行)

○ 嫌いな映画/TV番組(小学館・志1行)

○ 好きな作家・アーティスト(3人)(角川書店・志1行)

○ 好きなアーティスト名(or作品)とその理由を書いて下さい(ぴあ・履2行)

 いずれにしろ、座右の書の場合、ただ読んで感動したというだけでなく、その内容が自分の血肉となり、書いてあることを実生活の中でも実践しているというぐらい深入りしているものを選びたい。また、学問的な意味ではなく、一種の生活の知恵を得るため、辞書や参考書、マニュアルとしてしょっちゅう手に取るような書物でもかまわない。ちなみに私は、食生活および心と体の健康管理のために、次のような本を辞書代わりに使っている。

○ アンドルー・ワイル『ナチュラル・メディスン』(春秋社刊)

○ ルイーズ・L・ヘイ『ライフ・ヒーリング』(たま出版刊)

○ 久司道夫『マクロビオティック健康法』(日貿出版社刊)

○ ディーパック・チョプラ『クォンタム・ヘルス』(春秋社刊)

また、日々の心の糧として、日めくりカレンダー代わりに高橋徹『マヤン・カレンダー』(VIOCE刊)を、夢事典としてパトリシア・ガーフィールド『夢学』(白揚社刊)やトム・チェトウィンド『夢事典』(白揚社刊)などを愛用している。これらはどれも、食生活や夢やライフ・プランニングに対する私自身のこだわりをあらわすものばかりだ。

 このような座右の書・愛読書と呼べるものがない人は、最近読んだ本の中で特に印象に残ったものを選ばざるを得ないわけだが、その場合、ベストセラーや話題になっていて猫も杓子も読んでいるような本はあえてお薦めしない。当然試験官も読んでいるだろうから、詳しい感想を要求されたら、読み込みの浅さが露呈しないとも限らないからだ。それより、あまり人が読んでいないだろうと思われる本で、それについてならちょっとはコメントできると思うものを選ぶといい。それは暗にあなたのアンテナの感度のよさ、守備範囲の広さをアピールすることにもなる。

 

■座右の銘・好きな言葉


 「アフォリズム」という言葉がある。日本語で言うと箴言・格言の類のことだ。つまり、短い表現で物事の本質、人間の真実を言い当てるものである。本を読む楽しみのひとつに、こうした気のきいたセリフに出会うということがある。ものを書こうとする人間は、言葉の狩人でもなければならない。一冊本を読んだら、その中からひとつでもアフォリズムめいたものを拾い上げて、コレクションしておきたいものだ。そうした引き出しが多い人間ほど、書くネタにこまらない。あなたに、心を動かされた言葉のコレクションがたくさんあるなら、私家版のアフォリズム集を編纂してみるのも悪くない。

 あなたに座右の銘があるなら、千の言葉を労するより、たったひとつのアフォリズムに託して自分の気持ちを伝える方が説得力があるかもしれない。座右の銘がないなら、自分で作ってみるのも一興だ。簡単なアフォリズムの作り方をひとつご披露しよう。落語家がよくやる言葉遊びに「なぞかけ」というのがある。「〜とかけて〜と解く、その心は〜」というやつである。つまり、ある対象に類似する事象を持ってきて、二つを比較し、共通の性質を述べるという手法だ。アフォリズムなら「〜とは〜のようなもの。どちらも〜である」といった表現になるだろうか。比べる二つの事象が、一見まったく関係ないように見えるものほど、共通項でくくったときに、鮮やかな印象を残す。例はあまりよくないかもしれないが、こんなのはどうだろう。

「愚か者にとって、財産と恋愛経験は多すぎても少なすぎてもいけない」

 以下に、私のささやかな引き出しの中から、お気に入りの言葉をいくつか紹介しておこう。

 

「人を取除けてなおあとに価値のあるものは、作品を取除けてなおあとに価値のある人間によって作られるような気がする」(辻まこと)

「木のうえにのぼる方法は三つある。

    1.よじのぼる。

    2.ドングリのうえに坐る。

    3.大きな鳥と友だちになる。」(ロバート・メイドメント)

「あなたが手伝わなくても、太陽は自分で沈んで行く」(ユダヤの格言)

「一匹のネズミにへりくだった者は、もはやライオンにもへりくだる必要はない」(アンリ・ミショー)

「毛虫が終末と感じる状態を、蝶は誕生と感じる」(?)

「精神は物質なしでは存在しえず、精神なき物質は存在しうるけれどもわれわれを寄せつけない」(グレゴリー・ベイトソン)

 

■志望他社


 マスコミの応募書類に特徴的なのかどうかわからないが、必ずといっていいほど「当社以外の受験先」「他に志望している会社」という欄が見うけられる。これを書かせる意図が私にはさっぱりわからない。「NHK一本」といったブランド指向のマスコミ志望者はたまにいるようだが、たいていの学生は二股も三股もかけているだろう。わかりきったことである。二者択一を迫られたら、どちらを選ぶつもりかと聞きたいのだろうか。受かってもいないうちから、そんなこと答えられるはずもないだろう。聞く方も答える方も決していい気分ではないだろうに。

 履歴書・身上書の類は、きわめて個人的な情報を記述する書類である。あまりにプライベートに属することで、自分に不利になると思えるような情報は、あえて書かないという選択もあり得る。他の項目がしっかり書けているなら、この欄は空白にしておいても私はかまわないと思う。面接で聞かれたら、「プライベートなことなので、答えられません」ときっぱり拒否してもいい。

 

■あなたってどんな人?


 性格、長所・短所、セールスポイント、自己PRということなのだが、これも簡単な記述ですむ場合と、たっぷりスペースをとって、明かな広告やプレゼンテーションの手法を要求してくる場合とがある。

○ 長所・短所(角川書店・志1行)

○ あなたの長所・短所(小学館・志2行)

○ 長所、短所を含め、自己PRしてください(時事通信社・履8行)

○ あなたの性格を含め、自分のいやなところといいところを紹介してください(講談社・紹5行)

○ あなた自身の性格・特徴またはセールスポイントと思われるものを具体的に書いてください(集英社・志4行)

○ 自分のセールスポイント(産経新聞社・セ5行)

○ あなたの人物像・セールスポイント(日本テレビ・履6行、アナ8行)

○ あなた自身をアピールして下さい(フジテレビ・アナ5行)

○ 自己PR(朝日放送・セ20行)

○ あなた自身をプレゼンテーションして下さい(テレビ東京・志13行)

○ 絵または言葉(60字以内)で自己PRしてください(小学館・志)

○ このページをあなたの「全面広告」として利用して下さい(フジテレビ・セ400字程度)

○ あなたのことを教えて下さい(@これだけは他人に負けないといえるもの/A性格の自己分析をしてみて下さい/B大学であなたが専攻したものは)(テレビ西日本・紹30行)

○ 自己紹介をして下さい(朝日新聞社・履3行)

○ 自己分析(読売新聞社・志4行)

 結論から言おう。ここでは、自分がどんな性格か、どんな点が優れているかを書いてもダメである。特に、ほとんどの学生は、性格をあらわす形容詞を並べたり、〜的、〜性、〜力、〜派などの表現を使ってしまうが、これも禁物だ。ここでは、希望する職種に対して自分がどれだけ適性を持っているかを具体的に立証してみせなければならない。

 たとえば、あなたがテレビ局のドラマ制作を希望しているとする。そこでまず、ドラマ制作者に必要な資質とは何かを考える。それが仮に「想像力」だったとする(実際に、クリエイティヴな仕事には、想像力が必要不可欠な資質である)。そこで、自分にはどれだけ想像力があるかを、「想像力」という表現を使わずに立証してみせなければならないわけだ。まさに想像力が要求される作業である。

 そもそも自分の性格を自分で答えさせる意図を私は疑う。性格とは、自分が自分に対して感じている自己像と、他人がその人を見て判断している面と両方ある。「明るい」と書いたからといって、その人が他人から見ても明るい性格である保証はどこにもない。性格認識とは、本来自他の差が出てあたりまえのものだ。だから本来は、面接官が本人と面と向かって判断すればいいことだろう。それを本人に書かせても、不要な固定観念を招くだけのようにも思う。

 また、人間の振る舞い方とは相手によっても変わるものだ。その意味では、人間はあらゆる側面を持っているとも言える。したがって、性格を問われたら、自分の中の理想的な自己像、どのように振る舞っているときの自分が好きか、自分が望ましいと思う自分のあり方、といった観点で答えざるを得ない。それでいいと思う。

 長所・短所となると、もっとはっきり自他の認識の差が出るだろう。もともと長所と短所は表裏一体のものだ。本人が長所と思っていることも、他人から見れば好ましく映らないという差異はよくある。記述欄が小さい場合、私なら「長所=自分の短所を知らないところ。短所=自分の長所を知らないところ」と答えるかもしれない。記述欄が大きい場合、私ならこんなエピソードを書くかもしれない。

 ある日、早朝の渋谷で人を待っていると、ジャージ姿の若い女性が声をかけてきた。「ちょっと、すみません。あなたは今最高ですか?」きたな、と思った。どこかのカルト教団か何かの勧誘であることは一目でわかった。そこで私はすかさず答えた。「あなたに呼び止められるまではね」それを聞いて女性はあわてて立ち去った。これが私の長所でもあり短所でもある。

 ついでだが、もし面接で私のこの長所・短所の欄が話題になったら、こんなエピソードを披露するかもしれない。主人公は私の友人のMさん(四十代半ばの男性。高校の国語の先生)。夕方の三鷹駅で私と待ち合わせをしているときのことである。かなりの時間待たされている彼のもとに、若い女性が近づいてきた。

「あなたの健康と幸福をお祈りさせてください」

Mさんはちょうどいいヒマつぶしがきてくれたとばかり、「祈らせてやってもいいが、条件が二つある」と切り出した。「ひとつは、オレのやってほしくないことはやらないでほしい。もうひとつは、やってもらいっ放しはイヤだから、オレにもお返しをさせろ」というのである。するとその女性は、自分はお守りを持っているから祈れるのだが、あなたは持っているのか、と切り返してきた。自分はお守りなど持っていないが、どのようにお返しするかは自分の自由だ、とMさんは答えた。すると彼女がみるみる緊張して、体がコチコチになってくるのがわかる。何かヘンなことでもされると思ったのだろうか。Mさんは、ヒーリングは信じているし、祈ってもらうこと自体は全然問題ないのだが、こんな状態ではとても人を健康にしたり幸福にしたりなどできないだろうと思って見ていた。すると彼女は、何だかちょっと違うようなので、自分ではなく、向こうに男性の仲間がいるから、そちらに祈ってもらってくれ、と言って、そそくさと逃げて行ってしまったという。何がどう違うのか、よくわからなかったが、まあ、他の人がきてくれるなら、それでもいいか、と思って待っていた。ただし、彼女のように人を見られてはたまらないので、今度は相手が声をかけてきたら、まず「誰の健康と幸福でも祈ってくれるのか」と聞いてみようと、待ちかまえていた。相手が「うん」と言えば、こちらの二つの条件も呑まないわけにはいかないだろうという思惑である。

 ところが、彼女の仲間とおぼしき男性は、他の通行人には盛んに声をかけているのに、Mさんの近くにくると、わざと視線を避け、目を合わせないようにしている。どうやら彼女からさっそくお達しが回ったらし。新興宗教といえども人を選ぶのか。「せめてどんなお返しの仕方をするのか、ぐらいは聞いてくれてもよかったのに。そうすれば、そこから会話が始まったかもしれない。お手間はとらせません、と言われたけど、こっちはヒマだから、どうせなら30分ぐらいやってほしかったけどね。けっこうだらしがないな」とMさんは嘆いてみせた。彼らしいヒマのつぶし方である。同じシチュエーションに出会っても、対し方にはそれぞれの性格が反映されるいい例だ。私とMさんのどちらを好むかは受け取り手によるだろう。

 さて、そもそも自己PRとは何か。PRとは「Public Relations」の略である。日本語にすると「渉外」つまり外部との交渉という意味だ。そこから派生して「広報」とか「宣伝活動」とかいう意味になっている。つまり、自分と社会との関係であって、自分の利点を一方的にアピールしても自己PRにはならないわけである。自分は何が得意か、何ができるかを一方的に売り込むのではなく、自分は何によってどのように社会と交渉を持ち、社会の発展に貢献したいと思っているかを外側に向かって宣言することが、本来の自己PRなのである。これはもはや、ある特定の業界にアピールしたり、ある特定の職種を目指したりというレベルの問題ではない。あなたの生涯目標に属する事柄である。つまり、あなたは一生をかけてどんな人間を目指し、何を達成しようとするかという問題である。その生涯目標にてらして見れば、就職試験も職業選択も、そして書くことさえも、すべて目標達成のための手段にすぎないことがわかってくるだろう。それができれば、マスコミに限らず、あらゆる業界に通用するたったひとつのあなた独自の自己PRが完成したことになる。そうすれば、業界ごとに、あるいは会社ごとに違うPR材料を用意する必要もなくなるわけだ。

 確かに生涯目標を定めることはたやすいことではない。一生かかっても目標が見つからない人もいるかもしれない。反対に、子どもの頃から目的を持って生きている人もいる。どうせ想い描くなら、達成不可能と思えるような大それた目標を掲げよう。達成できなくても人生に敗れたというわけではない。高い目標を掲げて生きているということが大事なのだ。

「理想とは星のようなもの。到達することは不可能だが、海を渡る船乗りのように、人はそれによって自分の針路を決めることができる。」(カール・シュアツ)

なるべく遠くに目標や理想を持てば、今この瞬間道に迷わなくてすむ。たとえ迷ったとしても、常に道は示されていると信じることができる。あなたが道に迷っても、夜空から星が消えるわけではない。

 自分には何の目標もない、無目的に生きているという人には、こんなイメージ・ワークをお薦めする。

○ 自分が七十歳になったときの姿を想像してみる。どこで何をしているか。周りには誰がいるか。どんな心持ちがするか。何を成し遂げたか。やり残したことは? これから先、どこへ向かっていこうとしているか。

○ あなたはすでに人生の成功者だ。「成功の秘訣は?」と聞かれたら何と答えるだろう。

○ 自分の墓にどんな墓碑銘を刻みたいか。

 「人間は地球にとっての癌細胞で、イルカは地球にとっての白血球だ」と言う学者がいるが、私はそうは思わない。「ガイア説」を唱える人達が言うように、地球も一個の生命体だとすると、イルカも人間も地球という生命体を構成する細胞ということになる。その生命体の中で、人間という細胞は他の細胞を破壊することばかりを繰り返し、ときには自分の仲間の細胞まで殺し尽くそうとさえする。そういう意味では人間は、人体の中の癌細胞と同じ振る舞いをしている。もしイルカが地球にとっての白血球だとしたら、そんな人間を異分子とみなして攻撃してくるはずである。しかし、イルカが人間を助けたという報告はあっても、攻撃してきたという報告は今のところない。ただ、このまま人間が破壊活動を繰り返すなら、地球の免疫機能が働いてイルカが人間に襲いかかることもあるかもしれない。私は、個人的には地球にとっての癌細胞になるよりは白血球になりたいと思っている。そこで、私が自分の墓に墓碑銘を刻むなら、こんな具合になるか。

 「地球にとっての白血球になろうとし、ついに地球の膿になった男、ここに眠る」

 ご存じのこととは思うが、膿(うみ)とは白血球の死骸である。癌細胞を排除しようとして活躍した白血球は、自らも命を全うし、生命体の外へ膿となって排出されるわけだ。これは私の死生観をも示している。

 

■今までどのように生きてきたか


 以下の項目を見てもわかるように、ここでは「学生時代に最も力を注いだことと、それによって得た成果」というテーマに尽きる。再三述べてきたことの繰り返しになるが、このテーマに取り組む場合、カタログ的羅列、青春グラフィティ調、卒業生答辞調にならぬよう、ポイントをひとつのエピソードに絞り、そのクライマックスの瞬間をディテールを交えながらじっくり語ること。

○ 学生時代に最も力を注いだこと(産経新聞社・セ3行)

○ 学生時代に最も力を注いだことは?(フジテレビ・アナ4行)

○ 学生時代に打ち込んだことと得た成果(毎日放送・セ3行)

○ 学生時代に力を注いだこと、その成果(読売新聞社・志7行)

○ 学生時代に最も力を注いだこと・自分のモットーなど(フジテレビ・セ3行)

○ 学生時代に最も力を注いだことは何ですか。その結果何を得ましたか(角川書店・志5行)

○ 学生時代、または卒業後、特に力を注いだこと(具体的に)(小学館・志4行)

○ 学生生活を通じてとくに得たもの、感じたことなどを自由に述べてください(NHK・志6行)

○ ユニークな体験、あるいは学生時代に熱中したことは何ですか(時事通信社・履16行)

○ 学生時代とくに力を入れてやったことについて、その動機・内容を書いてください(集英社・志4行)

○ あなたが学生時代に最も打ち込んだことは何ですか。次のポイントをふまえて書いて下さい。@なぜそれに打ち込んだのか。Aそこから得られたもの、身についた力はどんなものか(ぴあ・履7行)

○ ここ数年力を入れてきたこと、また最近の関心事は何ですか(朝日新聞社・履6行)

○ アルバイト歴・その他の特異な経歴や体験(読売新聞社・志6行)

○ あなたの学生生活を簡潔に紹介して下さい(文芸春秋・志9行)

○ あなたの学生生活を報告してください。他人にくらべて誇れることがあれば書いてください(講談社・紹10行)

 たとえばあなたが、学生時代のすべてを料理に費やしたとするなら、何かひとつ得意な料理をとり上げて、その作り方を、プロセスが読み手の頭にありありとイメージできるように語って聞かせてやればいい。かの名優オーソン・ウェルズは、自分でシナリオを書き、自分でそれを朗読して「火星人襲来」というラジオ番組を制作した。その語りがあまりにもリアルだったため、本当に火星人が襲来したと勘違いした聴衆がパニックを起こしたという逸話が残っている。

 つまりここでは、そのエピソードの善し悪しが問われているのではなく、あなたの語りの技術が問われているのだと思うべし。これはマスコミ人としての必要条件だ。新聞記者になるにせよ、アナウンサーになるにせよ、報道や制作を志すにせよ、語りの技術が要求される。これがきちんとできれば、それによって何を得たかを書かなくとも、その経験によって語りの技術を身につけたということは最低限伝えることができる。ただし、エピソードを選ぶ場合、欲を言えば、その経験によって自分が志望する職種に対する適性を獲得できたことがわかるようなものであれば、それにこしたことはない。

 

■今どんなことを考えているか


 ここに列挙した項目はどれも、あなたの好奇心の強さ、物事をどこまで突き詰めて考えているかを問うている。興味の対象は問題ではない。むしろ、どんなことにでも関心を示し、深く追究していく姿勢こそがマスコミ人に求められる条件だろう。入り口は狭くても、突き詰めていけば、あらゆる方向へと発展していく。たとえば「食」という切り口をとり上げても、環境問題、日米問題、東西問題、先進国と途上国の関係、果ては地球全体・人類全体の未来へと広がっていく。

 だからこそ「学生時代に最も力を注いだこと」などのテーマと同じように、ひとつの切り口にポイントをしぼり、あくまで自分の個人的な領域に引きつけて語らなければ、単なる絵空事になってしまい、リアリティは出てこない。

 これは論文の試験などで時事的なテーマが出された場合でも同じだ。ここでも七割の学生が共通に犯してしまう誤りは、社会問題や時事問題を問われて、一般論に終始してしまい、自分とその問題とのパーソナルな関わりがちっとも語られないということだ。私なら、時事問題を問われてもあくまで個人的なエピソードで答える。頭を切り換える意味で、試しに、出された問題の前に「私と」という接頭語をつけて考えてみるといい。たとえば「尖閣諸島」「パパラッチ」「少年犯罪」といったテーマが出されたら、「私と尖閣諸島」「私とパパラッチ」「私と少年犯罪」という具合に置き換えてみるのだ。

○ 最近印象に残ったことは何ですか(時事通信社・履11行)

○ 最近最も印象深かった出来事(NHK・志2行)

○ 最近心に残った身近な出来事(日本テレビ・アナ8行)

○ 最近最も感動したこと、または憤慨したこと(テレビ朝日・アナ2行)

○ 最近最も感動した事(テレビ東京・志3行)

○ 最近興味を持っていることと、その理由を書いて下さい(ぴあ・履3行)

○ 最近の出来事で印象に残ったことについて書いてください(集英社・志4行)

○ 現在、一番関心を持っている事と、その理由(小学館・志2行)

○ ここ数年力を入れてきたこと、また最近の関心事は何ですか(朝日新聞社・履6行)

○ 最近あなたが感動したこと、関心のあることについて、各項目ごとに、簡略に書いてください(マガジンハウス・志)

    映画・テレビ(3行)

    音楽・スポーツ(3行)

    本・雑誌(3行)

    実体験(5行)

    その他(5行)

○ 最近、関心を持った時事問題とあなたの意見(テレビ朝日・アナ6行)

○ 最近の社会問題の中でとくに関心があるものを挙げ意見を聞かせて下さい(テレビ西日本・紹11行)

○ あなたが考える理想的な仕事の世界とは(小学館・志2行)

○ あなたは、社会に出て働く(仕事をする)ということについてどのように考えていますか(ぴあ・履4行)

 

■なぜウチに入りたいの?


 志望の理由、動機を聞かれた場合に犯しやすい誤りは、まずその会社や業界に対する意見や感想を述べてしまうということだ。特に「マスコミが好きだから」「〜に憧れて」「〜に共感して」などの理由は通用しない。そういう思いを抱いたいきさつを聞いているのであって、思いだけを言葉にしても何も伝わらない。信じるに足る証拠を見せもしないで「私を信じろ」と言っているようなものだ。証拠を見せれば「信じろ」と言わなくても人は信頼を寄せるだろう。

 「御社に入りたい、入れてくれ」という気持ちを前面に出すのも逆効果である。内定をもらうことが最終目的と思われてしまう。入試に受かるまでは必死に勉強し、入ったら遊びまくるありきたりな学生と同じだ。こういう学生に限って、入社後はあまり仕事をしないと思われても仕方がないだろう。

 すでに誰かがやっている仕事を褒め讃え、それと同じようなことをしたいからというのも禁物だ。すでに誰かがやっているのだから、あなたを雇う理由はない。

 採用試験とは、お見合いと同じだ。ただしちょっと変わったお見合いで、相手はあなたのパーソナル・データを履歴書などの形で事前に知っているが、あなたは直接のお見合い相手の情報をほとんど知らない。たとえば、面接官として登場するのは、採用のあかつきにあなたの直接の上司になるかもしれない人物である。その人物について、あなたは何も知らされていない。マナー違反だとは思わないだろうか。しかし、とにかくあなたはそのお見合い相手に気に入られなければならない。そこであなたはいきなり「あなたのことが好きです、憧れています。是非結婚してください」と言うだろうか。

 そんな特殊なお見合いを有利に進めるためにあなたがやるべきことは、自分を精一杯魅力的に見せることだけだろう。決して自分からラブコールをかけてはならない。ラブコールは相手にかけさせるべきものだ。あなたはひたすらフェロモンを発し続けるのだ。そして「あなたは私を雇う運命なのだ」というところまで相手を悩殺できたら決まりである。

 そう、まさに志望理由とは、その会社との運命的な出会い、なれそめ、深い因縁、いずれにしろきわめて個人的な事情である。そんなものあるわけがないと、あなたは言うかもしれないが、なければ、ある人間にはかなわない。あなたが採用担当者だったら、因縁の深い人間と浅い人間と、どちらを採用するだろうか。ないなら、無理矢理にでも作らなければならない。志望理由とは自分で作るものなのだ。その辺にころがっているわけではない。

○ 志望の動機(マガジンハウス・志4行)

○ 入社志望の理由(文芸春秋・志8行)

○ 当社を志望する理由(朝日放送・セ2行)

○ 読売新聞社に就職を志望する理由(読売新聞社・志3行)

○ 志望職種を選んだ理由(読売新聞社・志5行)

○ 当社を志望した動機、理由を書いてください(時事通信社・履11行)

○ 出版社である当社に就職を希望する理由を書いてください(講談社・紹5行)

○ 新聞記者を志望する理由、中でも朝日新聞を目指すのはなぜですか(朝日新聞社・履8行)

○ あなたは、ぴあという会社のどこに注目していますか。あなたの志望動機とあわせて書いて下さい(ぴあ・履5行)

○ 志望動機およびやりたい仕事(日本テレビ・履8行)

○ 当社を志望する理由と入社後やってみたいこと(小学館・志4行)

○ NHKを志望する理由、やってみたい仕事などを具体的に述べてください(NHK・志5行)

○ 今回のセミナー受講の動機、又はテレビ業界に入ってやりたい事(フジテレビ・セ5行)

 

■ウチに入って何がやりたいの?


 「ウチに入って何がやりたいの?」と聞かれて、「私はマスコミ人としての自覚を持ち、言論の自由を守るべく・・・、〜のような人になりたいと・・・」といった所信表明のような調子で答えてしまう人がいる。その会社に目標とする先輩がいる人ほど、あるいはもともとやりたい仕事などない人ほど、そういう答え方をしてしまう。しかし、ここではどんな人になりたいのかを問われているわけではない。社会人としての心構え、自覚、仕事への熱意、抱負といったものは、あって当たり前。よしんばなくても、まだ社会人になってもいない学生に社会人としての自覚を求めても仕方がないことくらい担当者は心得ている。答として必要なのは、あくまで具体的な仕事である。それが実現可能かどうかは、この際問題ではない。自己PRのところでも言ったが、あなたにどうしても実現したい生涯目標があるなら、就職はひとつの手段にすぎないと思うことができるはずだ。したがって、たとえその会社に入れなくても、目標が失われるわけではないので、挫折感はないはずだ。手段を変えればいいだけの話である。だから、就職活動にあたっては、自分の生涯目標の達成のためにその会社という場を借りるのだというぐらいのつもりで臨めばいい。

 あなたがもし新聞記者や報道記者志望なら、自分が生涯追い続けたいライフテーマと、それにこだわる理由、それを活字または映像として残す必然性について語るべし。

 あなたがもしテレビ局の制作志望なら、自分が作りたい新番組の企画を一本提示するべし。その際、その番組をその局で作る理由も添えるべし。自分の好きな番組を挙げて、その制作に参加したい、あるいはそれと同じようなものを作りたいというのは感心しない。

 あなたがもしアナウンサー志望なら、テレビ局のネットワークを通じて、世の中に何をアナウンスしたいのかを述べるべし。何もアナウンスしたいことがないなら、あなたは職業選択をもう一度考え直した方がいいかもしれない。

 あなたがもし出版社の編集志望なら、新しく出したい雑誌の企画や、こんな作家にこんな本を書かせたいといったアイデアを提示すべし。

 私の見るところによると、最近の若い人達は、飛んでいるようで案外保守的なところがあって、指定された書類以外は企業に提出してはいけないと思っているフシがある。しかし、もしあなたにどうしてもやってみたい仕事があるなら、それを企画書や提案書にまとめ、ここならと思うところにどんどん売り込んでかまわないのだ。形式や規定にとらわれていては、自分で自分の可能性を狭めることになるだけだ。あなたの企画に乗ってくる企業があるなら、あなたは試験など受けなくても合格するだろう。就職とはそういうものだ。

○ 将来の志望(日本テレビ・アナ12行)

○ 将来やりたい仕事や希望部(読売新聞社・志2行)

○ 産経新聞に入ってやりたいこと(産経新聞社・セ7行)

○ 将来やってみたい番組(テレビ朝日・アナ1行)

○ あなたはテレビ東京で何がやりたいですか?(テレビ東京・志11行)

○ 角川書店に入社してやりたいこと(角川書店・志764字)

○ 入社後にやってみたい仕事を書いて下さい(簡潔に、いくつでも)(TBS・セ5行)

○ 希望職種・分野で、どのような仕事をやってみたいかを具体的に書いてください(集英社・志4行)

○ どんなアナウンサーになりたいですか?またやってみたい番組は?(フジテレビ・アナ3行)

○ NHKを志望する理由、やってみたい仕事などを具体的に述べてください(NHK・志5行)

○ 志望動機およびやりたい仕事(日本テレビ・履8行)

○ 今回のセミナー受講の動機、又はテレビ業界に入ってやりたい事(フジテレビ・セ5行)

○ あなたが当社を志望される動機と入社された場合、どのような仕事を望まれるかを簡潔に記して下さい(テレビ西日本・紹8行)

○ 志望職種を選んだ理由と、入社後したい仕事を具体的に書いてください(講談社・紹5行)

○ 当社を志望する理由と入社後やってみたいこと(小学館・志4行)

○ 10年後のあなた自身を想像してみて下さい(テレビ西日本・紹10行)

 

■ウチをどう思っているの?


 もちろん、その会社に対するあなたの意見・感想・批評を聞いているのだが、調子に乗って大演説をぶたないこと。こういう質問に対し、勉強の成果を見せようと、ここぞとばかり業界批判、マスコミ論、「ジャーナリズムかくあるべし」式の論説を展開する人がいるが、これは感心しない。なにしろ相手はプロなのだ。あなたがいかにその会社(業界)の事情に詳しいかをアピールしようとしても、それは「釈迦に説法」というものだ。賞賛するにしても批判するにしても効果的とは言えない。特に新聞の投書欄的な書き方は禁物だ。あなたはマスコミ内部の人間になろうとしているのであって、投書マニアになろうとしているのでも、評論家になろうとしているのでもない。抗議、要求、対立の姿勢は絶対避けること。これは肝に命じておくべきだ。

 どうしても欠点を指摘したければ、必ず打開策を明示するべし。これができるなら、批判を提案へと発展させることができる。そう、まさに相手が期待していることは提案や企画なのである。意見・感想・批評を求められたら、提案や企画が期待されていると思うべし。そこで提案書や企画書をやおら提示できれば、効果絶大である。

○ あなたの朝日新聞に対する感想をお聞かせ下さい(朝日新聞社・履6行)

○ 読売新聞の紙面についての感想(読売新聞社・志5行)

○ NHKまたはNHKの放送番組についてあなたが考えていることを具体的に述べてください(具体的な番組の批評・感想でも結構です)(NHK・志4行)

○ フジテレビの好きな点・嫌いな点、及びそれぞれの理由(フジテレビ・セ4行)

○ 当社の最近の出版活動について意見・感想を書いて下さい(文芸春秋・志9行)

○ 当社の最近の出版物について意見・感想・批判を書いてください(講談社・紹3行)

○ 当社発行の雑誌・書籍に対する意見・感想(小学館・志4行)

○ 角川書店の出版物より一点を選び自由に意見を述べて下さい(角川書店・志5行)

○ 角川書店の好きなところ、嫌いなところを自由に記して下さい(角川書店・志5行)

○ マガジンハウスが発行している雑誌・書籍から一つ選んで、あなたの意見を書いてください(マガジンハウス・志20行)

○ 最近興味をもって視聴した放送番組名とその局名(NHK・志2行)

○ 最近興味を持って視聴した番組の批評・感想(他局も可)(日本テレビ・履6行)

○ 最近とくに印象に残った番組とその感想(TBS・セ9行)

○ これからの新聞の役割をどう考えますか(朝日新聞社・履7行)

○ 今の放送に望むこと(毎日放送・セ400字)

○ 「文芸」または「情報」についてあなた自身のことばで語って下さい(角川書店・志5行)

 

■まとめ:七割の学生が共通に犯している誤り


○ 「学生時代に力を注いだこと」を問われて、「青春グラフィティ調」や「卒業生答辞調」になってしまい、クライマックスの瞬間が全然描けていない。

○ 性格やセールスポイントを問われて、形容詞を羅列したり、〜的、〜性、〜力、〜派などの表現を使ってしまう。

○ 自己PRを要求されて、自分の特技やセールスポイントなどを一方的に主張するだけにとどまっている。あるいは、業界ごと会社ごとにPR材料を使い分けてしまう。

○ 「今までで一番感動したこと」を問われて、教訓や注釈ばかり並べて、ディテールがちっとも語られていない。

○ 社会問題や時事問題を問われて、一般論に終始してしまい、自分とその問題とのパーソナルな関わりがちっとも語られていない。

○ 志望動機を問われて、その会社なり業界の感想や批評を述べてしまう。あるいは、すでに誰かがやっている仕事を褒め讃え、それと同じようなことをしたいからと述べてしまう。

○ やりたい仕事を問われて、「こんな人に私はなりたい」式の答えになってしまう。

○ 自分からラブコールをかけてしまう。

○ 会社や業界への意見・感想・批評を要求されて、新聞の投書欄的な書き方になってしまう。



    

〜基本テキスト〜