親と教師のためのQ&A
 ・・あなたと子供の関係を再点検する・・



<目次>

■子供との関係、うまくいってますか?

■「災い転じて福となす」

■子供は、あなたの真実の姿を映す「鏡」

■「気づき」「光の教育・闇の教育」

■親と教師のためのQ&A


■解説

■提案:沈黙に語らせる










■子供との関係、うまくいってますか?

 あなたと子供、あるいはあなたと生徒の関係が非常にうまくいっていて、子供たちはあなたの期待に十分に応え、あなたと子供たちの間には常に微笑みと充実感と希望が満ちあふれているとします。そんなときおそらくあなたは、この子を産み育ててきて本当によかった、あるいはこの子供たちの教師になれて本当によかったという満足感と幸福感にひたっているに違いありません。あなたと子供の関係がこのようにうまくいっているときには、おそらくあなたにはいかなる教育書も必要ないでしょう。
 問題は、そうでない場合です。あなたは、いけないと思いながらも、この子と接するときはどうもしっくりいかず、ぎこちなくなってしまい、ときにはイライラしたりつっけんどんになったり、憎々しく思い怒りを感じ、声を荒立てたり手を上げたりしてしまったりということがあるかもしれません。子供の方もあなたにいつまでも打ち解けず、言うことをきかず、ときに激しい感情をあらわにし、ヒステリックに振る舞ったりすることもあるかもしれません。もっと悲惨なのは、あなたとしてはその子をきちんと評価し、愛情と誠意と思いやりを持って接しているつもりなのに、子供の方がいっこうにそれに応えてくれない、それどころかこちらの思いとはまったく逆の方向へ進んでいってしまい、関係はますます悪くなっていくばかりという場合です。


■「災い転じて福となす」

 そんなとき、あなたは戸惑い、混乱し、どうしていいかわからず取り乱すかもしれません。あなたの頭の中は「なぜ、どうして、自分がこんなに一生懸命やっているのに、子供に通じないのか」という思いで一杯になるかもしれません。なぜこの子はこんな行動を取るのだろう、なぜこの子はこんな態度に出るのだろう、この子には能力がないわけではないのに、なぜしようとしないのだろうという思いが頭に渦巻き、そのあまり、「どうしてあなたは言うことをきかないの」とか「どうしてあなたは〜できないの」とか「どうしてあなたはそんなに〜なの」といった言葉が、あなたの口をついて出てくるかもしれません。しかし、ちょっと待ってください。その「なぜ、どうして〜」という疑問は、子供に問いただすべき疑問でしょうか。もしその理由を子供が知っていたとしたら、子供はそんな行動や態度には出ないはずです。その疑問はあなた自身が心の中で自問し、そして答えを見いだすべき問題です。子供に答えを求めるべき問題ではありません。
 実は、あなたと子供との関係がうまくいっているときより、そうでないときこそ、ひとつのチャンスなのです。なぜなら、少なくとも隠れていた問題がはっきり現れたということであり、敵の顔がはっきり見えていれば、勝利への作戦も立てやすいからです。さらにそれは「子供を伸ばし、よい関係を作るにはどうしたらよいか」ということを考えるチャンスであることはもとより、教育とは何か、はては人間とは何か、そして何より自分とは何かということを知る絶好のチャンスでもあるのです。


■子供は、あなたの真実の姿を映す「鏡」

 どんな教育書や育児書の中でも、繰り返し語られてきたことですが、子供は親や教師を生き方のモデルとして、それに同一化して成長するものです。つまり子供は、親や教師がしゃべるようにしゃべり、行動するように行動し、振る舞うように振る舞うということです。それはあらゆる子供の正常な発達段階であり、そうした振る舞いは子供が青年期に達し、自分独自のアイデンティティを確立するまで続けられるのです。「子は親を映す鏡である」と言われるのはこういう理由からです。つまり子供の態度や行動は、そのままあなた自身の態度や行動だと言ってもよいわけです。それは恐るべき指摘であり、目をそむけたくなるような事実かもしれません。なにしろ、今まで想像だにしなかったようなまったく違う側面から自分自身を映し出す特殊な鏡を突きつけられて、そこに見たこともないような自分の未知の顔を見いだすことになるわけですから。しかし考えようによっては、これほど有意義で便利な鏡もありません。なぜなら、滅多なことでは見ることのできない自分の隠された面を、簡単にしかもありありと見せてくれるのですから。自分自身の態度や行動はなかなか客観的に評価できないかもしれませんが、他人のことならある程度冷静に観察し、分析できるはずです。そしてその評価が自分自身を認識するのに大いに役立ち、しかもあなたと子供の関係の改善にも役立つとしたら、これほどのチャンスがあるでしょうか。


■「気づき」「光の教育・闇の教育」

 さて、これから「子供」という、あなた自身を映す鏡を通して、あなたと子供との関係を眺め、問題があるとしたらそれはどんな問題で、それにどのように対処したらよいか、そして子供を成長させると同時にあなた自身も成長させるにはどうしたらよいかを考えるために、あなたにいくつか質問を投げかけたいと思います。これらの質問に答えていただくにあたり、次の二つの点に留意してください。

○ これはあなた自身の心のありようを知るための試みですから、中には答えにくい質問もあるかと思いますが、自分を偽らず、正直に、包み隠さずお答えください。ここで重要なことは、あなた自身が問題の本質に気づくということです。それは頭で理解しているということとはちょっと違います。あなた自身が「あっ、そうか、そうだったのか」と気づき、「なぜこんなことに今まで気がつかなかったのか」と驚き、その驚きを肌で実感するということです。そしてその感覚を、子供との関係において折りにふれ思い出すということです。

○ あなたもかつては子供だったという事実を思い出してください。つまりあなたも子供の頃、自分の親や教師や周りの大人たちの態度や行動を映す鏡だったといことです。そしてそのときの映像は、今でもあなたの記憶として残っているということです。大人になった今でも、あなたはそれらの映像に少なからず影響を受けて行動しているはずです。したがって子供がとる態度とは、あなたを通してあなたの親や教師から引き継がれたものであるとも言えるのです。特にあなたが否定的な感じを抱いた親や教師の態度は、あなたの意識の明るみではなく、無意識の暗がりで継承されている可能性があります。それらは、言葉やその他の意識的で理性的なメッセージとして伝達されるのではなく、あなたの何気ない仕草や表情や振る舞いといった伝達経路を通して、知らず知らずのうちに、しかし確実に闇から闇へと(つまりあなたの無意識から子供の無意識へと)手渡されるのです。
  そこで重要なことは、質問に答えることによって「気づき」が起こったら、子供に引き継がせるべきあなたのよい資質に関しては、確実に伝える方法を考え、そうでないものに関しては意識的に(自分の意志でもって)その伝達経路を断ち切り、子供に引き継がせないよう努力するということです。




■親と教師のためのQ&A


Q:@−a
 最近、子供の態度を見ていてイライラすることはありますか。あなたは子供がどんな態度のときイライラしますか。


Q:@−b
 あなたは、子供がどんな態度のときに安らかで肯定的で満ち足りた気分になりますか?


Q:@−c
 あなたは、子供が憎たらしいと思うことはありますか。子供に怒りを感じたり、力でねじ伏せたいと思った(あるいは実際にそうした)ことはありますか。


Q:@−d
 あるとしたら、それはどんなときですか。何が原因でしたか。そのときの状況は?


Q:@−e
 そのときの子供の態度、反応は?


Q:@−f
 力でねじ伏せたり、大声を張り上げて怒鳴ったりしたことがあるとしたら、そのときのあなたの気分は?


Q:@−g
 そのときのあなたの態度は、子供の目にどのように映ったと思いますか?


Q:@−h
 あなたは親や教師から体罰を受けたことがありますか?




Q:A−a
 最近、子供が自分の言うことをきかないと思いますか。自分は無理な要求をしているわけではなく、親(あるいは教師)として当然の要求をしているにもかかわらず、子供がそれに応じない、あるいは返って反抗的な態度に出るということはありますか?


Q:A−b
 あるとしたら、そのときのあなたの要求の内容ではなく、要求の仕方、態度、ものの言い方は?


Q:A−c
 それに対する子供の反応、態度は?


Q:A−d
 そのときのあなたの気分は?


Q:A−e
 その気分は以前に経験したことがありますか。あるとしたら、それはどんなときでしたか?


Q:A−f
 子供のとる態度と同じような態度を、あなたは自分が子供のときに自分の親や教師に対してとったことがありませんか?


Q:A−g
 あなたは子供の頃、親や教師から十分に愛され、認められて育ったと思いますか?


Q:A−h
 あなたは、「子供はおとなしく、おりこうで、大人の言うことを何でも素直にきくものだ」と教えられましたか?



Q:A−i
 あなたは子供の頃、「大人の言うことをきくと、愛してもらえるんだな」と感じたことがありますか?


Q:A−j
 あなたは他人や物事に対して批判的だったり懐疑的だったりする方ですか?


Q:A−k
 あなたの人との関わり方、つき合い方、人の愛し方、自己主張の仕方、世の中を見る目、その他の価値観は、子供の目にどのように映っていると思いますか?


Q:A−l
 あなたは、自分自身のことで考えなければならないのに、あえてそれと直面せずに棚上げにしていることはありませんか。直面することを恐れたり、それに対して不誠実だったりすることはありませんか?


Q:B−a
 あなたの子供(あるいは生徒)の長所をできるだけ沢山挙げてください。


Q:B−b
 その長所の中から、子供がときどき、あるいは頻繁に、そのように振る舞おうと思いながらも、うまくいかない、あるいはしくじるようなものに特に○をつけてください(複数も可)。


Q:B−c
 あなたの子供(あるいは生徒)の短所をできるだけ沢山挙げてください。


Q:B−d
 その短所の中から、あなたがどうしても許せないと思うものに特に○をつけてください(複数も可)。


Q:B−e
 あなたが子供に、こうなってほしい、ああなってほしいと思っている期待をできるだけ沢山挙げてください。


Q:B−f
 その中で、あなたがそう期待しながらも、子供がその期待に応えてくれていないと思われるもの、子供には当然その能力があるにもかかわらず、さぼっていると思われるもの、あるいは期待とはまったく逆の方向に進んでいってしまっていると思われるものに特に○をつけてください(複数も可)。




■解説

○ @−a〜@−hについて
  あなたをイライラさせたり、あなたに憎悪や怒りを感じさせたりする子供の態度は、あなた自身が直そうと思いながら、未だに実現できずに苛立ち、焦り、自己嫌悪を覚えているあなた自身の生きる態度を示しているとします。あなたがそうした子供の態度に対して暴力や暴力的な態度で応じるとしたら、それは一般的にあなた自身が自分の親や教師から受けた暴力的な行為が関係していると考えられます。
  あなたを肯定的な気分にさせる子供の態度は、自分のそのような部分について、他人から認められたいと思っているあなた自身の性質、自分がそのような態度のとき、他人から同じように扱われたいと願っているあなた自身の願望を表しているのかもしれません。

○ A−a〜A−lについて
  あなたの子供に対する要求は、あなたが自分自身に対して発している要求かもしれません。自分自身のことで考えなければならないのに、直面することを恐れ、棚上げにし、それに対して不誠実になっている要求かもしれません。なぜならそれはあなたにとって理不尽なものであると自分自身が感じているからです。あなたがもし、子供の頃、親や教師から十分に愛され、認められて育ったという感覚を持っていないとしたら、あなたはその愛情を子供に求めているのかもしれません。あなたは子供に対して「どうして私を愛してくれないのか」と無意識のうちに叫んでいるのかもしれません。しかし、それは理不尽な要求です。なぜなら愛されたがっているのは子供の方なのですから。
  もしあなたが、「子供はおとなしく、おりこうで、大人の言うことを何でも素直にきくものだ」と教えられたとしたら、あなたはおとなしくなく、おりこうでもなく、大人の言うこともあまり素直にきけない子供を正当に評価できないかもしれません。
  もしあなたが子供の頃、「大人の言うことをきくと、愛してもらえるんだな」ということを学んだとしたら、大人の言うことをきかない子供を愛せないかもしれません。
  もしあなたが子供の頃、この世の中は愛に満ち、信頼するに足るものだということを教えられなかったとしたら、あなたは他人や物事に対して批判的だったり懐疑的だったりするかもしれません。
  また、もしあなたが子供の頃モデルとしていた大人の態度や行動の仕方が、意識の明るみによるものではなく、無意識の伝達メカニズムによってあなたに伝達されていたとすると、あなたの人とのつき合い方、愛し方、自己主張の仕方、要求の仕方もぎこちなく、他人に理解されにくく、子供は戸惑いを覚えているかもしれません。

○ B−a〜B−fについて
  あなたが挙げた子供の長所のうち、あなたが○をつけなかったものが、その子供が本来備えている本当の長所です。それを確実に伸ばしてやることを考えてください。
  あなたが○をつけた子供の長所は、あなたが子供の頃、親や教師の期待に応えようとして努力しながらも実現できなかったあなた自身の長所を示しています。あなたは、そのときの挫折感を自分の子供や生徒で補おうとしているのかもしれません。
  あなたが挙げた子供の短所は、すべてあなた自身の短所を表しています。特にあなたが○をつけたものは、あなた自身が直そうと努力しながらも実現できずにいる短所です。今すぐにそのことを認め、それらの自分の短所を受け入れ、許し、自分を責めるのをやめてください。
  あなたが挙げた子供に対する期待のうち、あなたが○をつけなかったものは、あなた自身が達成できると思っている(あるいはすでに成し遂げている)自分自身に対する期待を示しています。これはおそらく文句なしに子供も達成できるでしょう。
  最後に、あなたが○をつけた子供に対する期待ですが、子供がこれらの期待に応えられない理由には二通り考えられます。
  ひとつは、あなたが無意識のうちに期待とはまったく逆の結果を子供に望んでいるのかもしれないということです。まさかそんな恐ろしいことが、と思うかもしれませんが、その理由には、次のようなことが考えられます。
   ・その期待が達成されないことによって、あなた自身が何らかの心理的利益を得る。
   ・その期待が達成されないことによって、あなた自身の好ましくない性質が表に出ることを防いでくれる。
  もしこれらの理由に心当たりがあったら、それから目をそむけず、正面から向き合い、乗り越える努力をしてください。さもないと子供は期待に応えられない以上の不利益をこうむることになります。
  もうひとつは、あなたが、その期待に子供が応えられると、本気で信じていないのかもしれないということです。つまりあなたが子供に期待した目標のレベルが低すぎるのかもしれないということです。結果を急ぎすぎるがあまり、あるいは「どうせこの子にはできっこない」と思うがあまり、目標を低く設定しすぎているのかもしれないということです。「いや、期待が大きいからこそ、できないでイライラしているのだ」と思うかもしれません。しかし、それは反対です。子供の可能性を信じず、目標を低く設定しすぎると、「せめてこのぐらいは人並に」と思うがあまり、子供が応えられないことが、あなたを必要以上にイライラさせるでしょう。しかも子供は、あなたの設定した目標以上の結果を出すことをしなくなり、かえって子供のやる気と可能性をつぶしてしまうことになります。目標を大きく持てば、気長に構えるようになり、目先の細かい失敗は気にならなくなるはずです。また、たとえ最終的にその目標に到達できなかったとしても、それを挫折と感じることはなく、むしろ小さな成功の積み重ねがあなたを喜ばせ、その積み重ねによって一歩一歩目標に近づけたことが、あなたと子供を満足感で満たすに違いありません。
  さもなくば、いっさいの期待を放棄してください。そうすれば、子供の小さな成長が大きな驚きと喜びに変わるはずです。なまじ期待があると、失敗ばかりが目につき、教育が「減点法」になってしまいます。つまり失敗のたびに百点から一点ずつ引いていって、しまいには子供の評価を零点にすることになってしまいます。子供は百点満点で生まれてきて、成長とともに評価が下がるなどということはあり得ません。また、歩調の違いはあれ、日々成長しない子供もあり得ません。ゼロから出発して、成功のたびに一点ずつ追加していく「加点法」の教育に今すぐ切り替えてください。


■提案:沈黙に語らせる

 さて、「あなたと子供の人間関係」というテーマを締めくくるにあたり、最後にもうひとつだけ提案をさせてください。今まで私たちは、子供が大人の行動、態度、仕草、表情、ものの言い方、振る舞い、声の調子、他人との関わり方、自己主張の仕方など、言葉以外の伝達経路から、極めて重要なメッセージを受け取ることを見てきました。そこで試しに一日だけ、言葉をいっさい交わさずに子供とコミュニケーションしてみるというのはどうでしょう。私は以前、旧い映画の中でカトリックの修道女たちがこのような修行をしているシーンを見たことがあります。それはぎこちなく、まどろっこしく、報われない努力に思えるかもしれません。しかし、言葉に頼らないことによって、子供たちが私たち大人の何に反応しているのか、そしてそれに対してどのような応答を返してよこすのかがハッキリするかもしれません。またそれによって、私たちと子供たちの関係に改善すべき問題があるとしたら、それは何なのかがハッキリするかもしれません。







  

子育て〜