「剣豪」


昔々、戦国の世に宮本小次郎という剣豪がいた。

宮本小次郎が、ある戦に馳せ参じたときのこと。

さんざん雑魚どもを斬り捨てた後、最後に強敵と相対した。

ひと目見ただけで腕の立つ相手とわかった。

実力は、五分と五分。

自分はさんざん戦って疲れはてているが、

相手はまだ勢い盛んである。

形勢不利と見てとり、

こういうときは一瞬にして勝負がつくと直感した剣豪は、

「肉を斬らせて骨を断つ」の戦法に出た。

互いの刃がキラリと閃光を放ったかと思うと、

次の瞬間相手の剣は自分の太腿に突き刺さり、

自分の剣は相手の胸元に突き刺さった。

手ごたえあり。

自分の剣は、間違いなく相手の心の臓に達している。

もがき苦しむ相手を見て「勝負あった」と思った瞬間、

剣豪は不思議な感覚にとらわれた。

相手の剣が刺さった自分の太腿はまったく痛みを感じない。

ところが、何もないはずの胸元に激しい痛みを感じるのだ。

ちょうど自分の剣が刺さった相手の胸元と同じ位置である。

次の瞬間、相手はバッタリと倒れ、勝負はついた。