■一〇〇匹目のサル



 イギリスの生物学者ライアル・ワトソンはその著書『生命潮流』(工作舎)の中で、食餌の習性を観察するために研究者がサツマイモを与えている日本の沿岸の島に住むサルの一族の例を挙げている。

 掘りたてのイモは表面が泥や砂で汚れており、サルはそれを食べたがらない。ところがある日、一匹の若いメスザルがサツマイモを食べる前にそれを海で洗った。彼女はイモはきれいな方が食べやすいということに気づき、翌日もまたサツマイモを海で洗い、その後数週間にわたってそれを続けた。

 一匹また一匹と他のサルもその行動をまねしはじめ、汚れた餌を洗うために海に降りてきはじめた。その習性は次から次へと広まって、まったく突然普遍的なものになった。

 ワトソンはそれを次のように述べている。

 

 「話を進める都合上、便宜的に、サツマイモを洗うようになっていたサルの数は九九匹、時は火曜日の午前一一時であったとしよう。いつものように一匹の改宗者が仲間に加わった。だが、百匹目のサルの加入により、明らかに数が何らかのイキ値を超え、一種の臨界量を通過したらしい。というのも、その日の夕方になるとコロニーのほぼ全員が同じことをするようになっていたのだ。そればかりかこの習性は自然の障壁さえも飛び越して・・・他の島々のコロニーや本土の高崎山の群の間にも自然発生するようになった」

 

 こんな実験もある。

 モルモットの集団にある迷路を通り抜ける訓練をさせる。やがてその集団が、その訓練を完全にマスターすると、まったく別の場所、たとえそれが違う大陸であっても、その訓練をマスターする率が上昇するという。

 このように、あることが真実だと思う人数が一定数に達すると、それは万人にとって真実となるような現象、私たち自身の構成配置である形態がある域に達し、複数の因子が自らの拡張のための適切な数と関係を得て、ひとつの臨界値が満たされる、つまり生命現象がK点越えを果たした結果現れるようなシステムを、ワトソンは「コンティンジェントシステム」と名づけ、こうした種同士の共鳴現象、同種の間を時空を超えてつなぎ、進化を促すような関係を、インドの生物学者ルパート・シェルドレイクは「形態形成場」と呼んだ。