■「ホログラフィ」とは?



 「ホログラフィ」というのをご存じだろうか。レーザー光線を用いて記録・再生される立体写真のことである。

 通常の平面写真の場合、当たり前の話だが裏をひっくり返しても被写体の背面を見ることはできない。これに対しホログラフィ写真では、立体的に再現された被写体の裏に回り込めば、その被写体の背面を見ることができる。

 平面写真の場合、フィルムを透かして見ても、そこに何が写っているのか理解することはできる。仮にそのフィルムを半分に切れば、再生される像も半分になる。つまり被写体とフィルム上の虚像の間には一対一の関係が成立するわけだ。

 ところがホログラフィのフィルムにあたるホログラムには、被写体との間に一対一の関係が成立しない。ホログラムには干渉縞が見えるにすぎず、レーザー光線があてられてはじめて理解可能な全体像が出現する。

 さらにホログラムは、どれだけ細かく分割しても、その断片を使って再生すれば被写体の全体像を写し出すことができるという性質をもっている。ただし、使用する断片が細かければ細かいほど、再現像はキメが粗くなり、ぼやけて見える。つまりどんなに細かな部分の中にも全体の情報が織り込まれているのだ。

 

 ロンドン大学の理論物理学者デヴィッド・ボームは、先に挙げた「EPRパラドックス」に対し、このホログラムをアナロジーとして用い、こう解釈している。

 つまり、A、B二つの粒子はそれぞれが実はもっと大きなホログラムの一部であり、したがってそれぞれの粒子には全情報が内包されていると。

 彼は、宇宙の諸部分は根源的には不可分なものであるとして、それを「不断の全体性」として提唱するとともに、私たちの目に独立した部分と見えるものも、実は時空を超越したより根源的なレベルにある全体性の瞬間瞬間の投影であると主張する。

 そして、私たちの目に見える部分として立ち現れる現象を「開かれた秩序(エクスプリケート・オーダー)」と呼び、そこを超越した、より根源的レベルにある全体性を「織り込まれた秩序(インプリケート・オーダー)」と呼んでいる。

 つまりここで言えば、ホログラムに内包された被写体の全体像が「織り込まれた秩序」であり、ホログラムによって再現される画像が「開かれた秩序」ということになる。