■地球との一体感を味わう



 理屈っぽい記述が続きすぎた。最後にこんな話をして、この話をしめくくろう。

 一般に子どもは三歳ぐらいまで、世界の成り立ちに関する情報をたっぷりと吸収し、四歳ぐらいになると、この世界について、自分の物語について語り始めるようだ。

 私の息子も四歳を過ぎたあたりから、いきなり世界を語り始めた。

 

 息子が五歳五カ月ぐらいのときである。ある朝、ゴミを出しに行って戻ってきた妻が

「急いでたからスッピンで行っちゃった」

と照れくさそうに言うので、

「ゴミと一緒に見栄も捨ててきたのか」

と私がからかうと、横で聞いていた息子がすかさず言った。

「ゴミと一緒に思い出も捨ててきたの?」

 どうやら彼は「思い出を捨てる」という表現に思い入れがあるらしく、そんなことがあった数日後、次のような場面が展開された。

 娘(当時一歳三カ月)が手慰みに花火の柄を折ったのを見て息子が怒る。娘が泣き出すと、それを見ていた妻が娘を泣かせた息子を怒る。妻が泣いている娘をあやすためにアクセサリーケースからネックレスを取り出し、娘に渡すと、それをきっかけに、息子特有の禅問答が始まった。

「ママは思い出を切っちゃうの!。ネックレスは恋の思い出だよ。ほら見てごらん。買ったときから思い出なんだよ。あと一一五回怒ったら、思い出切れるよ。

 この前、公園行ったとき、帰りにママが道に迷ったでしょ。あれは思い出に浸っていたからだよ。そのときダイキが超能力で道を教えてあげたんだよ。

 ミホにも思い出があるよ。ミホが生まれたとき、ダイキとパパとママとミホの思い出がつながったんだよ。

 ダイキにも思い出があるよ。あの病院から生まれてきたんだよ。それから中野に行って、それから初めて保谷にきて、それから初めてここに来て、みんな初めてなんだよ。

 地球にも思い出があるんだよ。全部地球の思い出なんだよ」

 

 息子は特別空想好きでも思索家でもない。それでもどこかから世界の断片を拾い集めては自分の中に取り込んでいるようだ。しかも自分の身の回りとか生活できる空間とかを飛び越え、まるでホログラムに全体を投影するように、いきなり大きな世界とつながり、そこから現実の次元へ降りてくるような感じさえする。これは四歳以降の幼児の特徴かもしれない。

 

 最後に坪田愛華という人物を紹介しよう。

 一九七九年生まれ。小学校六年生のときに担任の先生から環境問題について課題が出され、彼女は得意な漫画で『地球の秘密』と題するレポートを二ヶ月がかりで描き上げた。彼女はその数時間後に突然脳内出血で倒れ、翌日一二年の短い生涯を閉じた。そのレポートの内容は極めてわかりやすい地球環境問題の概説書となっている。

 運命論的にいえば、彼女は『地球の秘密』を描くために生まれてきたということになるのだろう。そこまでいわずとも、少なくとも彼女の名はこの本の作者として長く人々の記憶にとどまるに違いない。

 現に『地球の秘密』は各国語に翻訳され、世界中に感動の輪を広げ続けている。そして彼女は国連環境計画(UNEP)が世界で環境問題に著しい貢献をした人に贈る「UNEPグローバル五〇〇賞」を受賞し、『地球の秘密』は国連の永久保存図書として認定された。

 その本の最後に「愛華ちゃん語録」というのがあり、そこに次のような生前の彼女の言葉が載っている。

 

「空を見ていると、自分がとても小さく見えるって言うけど、私は逆。自分が空一杯にどんどん拡がっていくの」

 

●参考文献

 『宇宙からの帰還』立花隆(中央公論社)

 『生命潮流』ライアル・ワトソン(工作舎)

 『グローバル・ブレイン』ピーター・ラッセル(工作舎)

『パラダイム・ブック』C+Fコミュニケーションズ(日本実業出版社)

『ニューエイジ・ブック』C+Fコミュニケーションズ(日本実業出版社)

『ドルメン(二)−特集−胎児の生命記憶』(ヴィジュアル フォークロア)

 『仏陀出現のメカニズム』山口修源(国書刊行会)

 

※『地球の秘密』については左記へ

 

  地球環境平和財団(TEL:03-5442-3161)