「帰還」


お父さん
ぼくは戦争から帰ってきました
あなたも若い頃経験したあの戦争から
ぼくは帰ってきました
なつかしいふるさとへ
あなたの待つ
ぼくの生まれた街へ


戦争は終わり
ぼくは生き残りました
戦友たちは次々と敵の銃弾に倒れ
ぼく一人生き残ってしまいました


ぼくは今、列車を降り
ふるさとの駅についたところです
でも、周りの風景はすっかり変わってしまいました
見覚えのあるものは何ひとつありません
出迎えの人たちにも見知った顔はありません
わが家へ続く道を歩いていても
街並に旅立つ前の面影はありません
すべてのものがすっかり変わってしまいました


ただ、この川にかかる橋だけは昔のままです
子どもの頃
橋の上からよく川に飛び込んで遊んだものです
なつかしくなって
欄干にたたずみ川をながめてみたら
ぼくはわが目を疑いました
川の流れが変わっているのです
右を見ても左を見ても
上流を見ても下流を見ても
どちらも
ぼくが立っているこの橋に向かって流れているのです
そして二つの流れは橋の下で合流し
深い滝つぼとなって消えているのです


お父さん
ぼくは夢をみているのでしょうか
あなたも戦争から帰ったあとそうだったように
ぼくは本当に帰ってきたのでしょうか
なつかしいふるさとへ
あなたの待つ
ぼくの生まれた街へ


戦争は終わり
ぼくは生き残りました
戦友たちは次々と敵の銃弾に倒れ
ぼく一人生き残ってしまいました


お父さん
ぼくはたどりつくのでしょうか
なつかしいわが家へ
あなたの待つ
ぼくの生まれた家へ


太陽は見えず
空はどんよりと曇っています