■人生という旅の目的



 ここで再び物語のワークに話を戻そう。

 

一・あなたは何を探しているのか?

  どこを探しているのか?

  そこは明るいか?

 この問いかけによって、私たちはこの総評の冒頭に挙げた根源的な自問に戻ることとなる。

  「自分はいったい何者か」

  「自分はどう生きればよいのか」

 

 このような問いかけを出発点として、ある論考を書いたことがある。

 その論考において私は、人間の個性の出所を追求しようとしたが、扱ったのは「魂」の問題である。

 そこで私は、人間から心と体を取り除いてまだあとに残るものを「魂」と呼んだが、同時にそれは、私たちが生まれる前から私たちに与えられていたものであり、生き方のイメージないし運命の声が書き込まれた「人生の計画書」のようなものだと定義した。

 私たちは日々この計画書に従って生きている。どう生きればよいかは、すべてこの計画書に書かれている。私たちに求められることは、この計画書の存在を思い出すこと、つまり自分の人生にとって最も大切でありながら、今は忘れてしまっている事柄を思い出すことである。これはまさに、なくした鍵を探す試みに相当する。

 

二・鍵とは何のためのものか?

 鍵とはもちろん、扉を開けるための道具である。謎を解くための手段と考えることもできる。人生の半分は謎であり、もう半分は謎解きだ。

 課題の話で、トムは家の扉を開けるための鍵を道端で探している。その姿はまさに人生の謎を解く手段を一心に探し求める私たちの姿とも重なり合う。

 しかし、トムの言うように、その鍵は本当は家の中にあるとしたら、謎を解く手段が謎そのものの中にあることになる。何という逆説だろうか。謎もそれを解く手段も別の場所に残したまま、トムは手段探しの虚しい努力を続けているのだ。それは、自分を(あるいは自分の魂を)見失ってうろたえている人間の姿と解釈することもできる。

 そもそもトムは鍵を家の中に残したまま、どうやって家に鍵をかけ、外に出たのか。もともと家に鍵などかかっていないのではないか。謎は深まる一方だ。

 このように考えるなら、謎などというものはもともと存在せず、やみくもに手段ばかりを探すのを止め、さっさと家へ帰れば、扉は簡単に開くのかもしれない。ただ「目先」を変えさえすれば、答えは簡単に見つかるのかもしれないのだ。

 

三・自分にこう言ってみる

  「鍵をなくしてしまった」

 家に鍵をかけたまま、本当にその鍵をなくしてしまったとしよう。それは絶望的な気分だ。疲れて帰宅したら、ポケットに鍵がないことに気づく。どこで落としたのか見当もつかない。安住の場を目の前にしながら、うなだれるしかない。すきっ腹をかかえて「絵に描いた餅」を指をくわえてながめているようなものだ。

 しかし、ここで思い出していただきたいことは、鍵とは扉を開けるためのひとつの手段にすぎないということだ。つまり、なくした鍵を探すことそのものを目的と考えてはならないということだ。

 扉を開ける手段なら、他にもいろいろある。蹴やぶるという方法もあるだろう。中にいる人に語りかけて開けてもらうこともできるかもしれない。開錠サービスを呼んで開けてもらうという手もある。裏に回って窓から入るのも悪くない。どうしても開かなければ、一夜の安住の場を他に求めるという手段もあるだろう。

 このようにして私たちは、「鍵をなくした」という現象によって、自分の本来の目的が、鍵を見つけることでも、家の扉を開けることでも、何とか家に入ることでもなく、安住の場を手に入れることであったことに気づく。手段の喪失は、私たちを本来の目的へと開眼させる。

 

四・「鍵は自分の家にある」と考えてみる。

 先に述べたように、これは極めて逆説的だ。自分の安住の場に入るための手段が、安住の場そのものの中にある。

 ここで私たちは、メーテルリンクの「青い鳥」の物語を思い出す。「青い鳥=幸せ」を探すため家を出て森の中に迷い込んだチルチルとミチルは、結局青い鳥はわが家にいることを見いだす。出発点こそが到達点だったというわけだ。

 しかし、この物語で重要な点は、二人の主人公が、道に迷いながらも、智恵と勇気と互いを思いやる心で苦難を乗り越え、その結果、再びわが家へ戻れたという点だろう。二人は道に迷うことによって成長し、大人になったのだ。大人になるということの意義は、自分で幸せをつかむことのできる力を養うということだろう。結果としてどこへたどり着くかは問題ではない。

 もし仮に、あなたが鍵を家の中に置き忘れたまま、家を閉め出されたとしよう。扉を開ける他の手段も見いだせないまま、やがてあなたは安住の場を求めて旅立つかもしれない。あなたはまさに、本来の自分を求めて人生の旅に出たのだ。その結果、もっと理想的な場所を見いだすかもしれないし、家の鍵を見つけて再びわが家へ戻るかもしれない。しかし、もはやあなたは旅立つ前のあなたではありえない。少なくとも、大事なものを見つけ出す力を備えていることになるのだ。